事業概要

第11回日立市地域産業創造賞
「納豆製造における独創的でこだわりのある新商品開発と販路開拓事業」

事業概要

菊水食品は、1948年(昭和23年)に現所在地の東大沼町に「菊水納豆製造所」として産声を上げました。創業以来、地元の小売店舗を主な販売先として納豆製造・卸売を続けてきました。
しかし、大量消費時代を背景に、低価格で大量供給が可能な大手納豆メーカーによる市場の独占が進行したことから、次第に既存販路が圧迫され、売り場の縮小が相次ぎ、売上げが低迷してきました。特に、たび重なる大型スーパーマーケットの市内進出に伴い、取引先の中規模スーパーが倒産するなど、販路体系が大きく変化したため大幅な受注減に陥りました。
この流れの中で、大手納豆メーカーでは容易に真似も実現もできないような、中小零細企業の特性を活かした事業展開を早急に進める必要性を実感しました。また、大型店の品揃えの一品に採用されることにより、安定した売上げにつながるとも考えました。そのためには、独創的で魅力ある商品、こだわりの商品、さらに、品質がよく安全で美味しい商品を作る必要がありました。
本事業は、多様化する消費者のニーズに答え、インターネットの普及など変貌する市場形成要因に迅速に対応すべく、

  1. 他社製品にはない新規性を追求し、かつ本物志向の消費者をターゲット
  2. 地域内に限定しない全国の需要を対象

として、既存商品の改良を含む新たな商品の開発と販路の開拓に着手したものです。

高級志向に対応した商品

菊水ゴールド納豆
菊水ゴールド納豆

この商品は、試作研究期間3年をかけて、平成元年に販売を始めました。本事業においてさらに製造方法を一から見直し、平成15年に大幅な品質向上を達成することができ、現行商品の元となる菊水ゴールド納豆の販売を開始しました。
商品を見ていただければお分かりのように、納豆自体をビニールで包んでいます。ここで問題なのは、納豆を室(むろ)(醗酵室)で醗酵適温まで給温するときに納豆の表面だけが温まったり、冷却の段階で表面だけ冷やされてしまったりといった、のぼせた状態や風邪をひいた状態の納豆になっていました。そこで、納豆全体を均一に醗酵させるために、最初から製造工程を見直すことにしました。

原料大豆の性質・特徴を最大限引き出すための浸漬(しんせき)、蒸煮(じょうしゃ)、さらに納豆菌の配合率を色々と変化させ、さまざまなパターンで幾度となく繰り返しました。
その結果、納豆としての5大要素である「味・色・形・香り・糸引き」のうち、「色・形・糸引き」は、以前の物より数段よくなりましたが、「味・香り」がどうしても改善されませんでした。そこで、包材であるビニールに問題は無いか検証してみました。すると、発泡材(PSP)の納豆は、醗酵が始まる10時間を越えると、納豆自体が醗酵の時に発する熱により、容器の中でごくわずかな空気の対流が起きていることが分かりました。それによって、熱が均等に伝わり、適度な水分を蒸発させ、さらに醗酵時に出るアンモニア臭や納豆ガスを気化させていると分かりました。

このことから、ビニール内で起こっていることを再検証してみました。すると、熱はこもり、空気の対流もなく、アンモニア臭、納豆ガスも排出できていませんでした。そこで研究を進めるうちに、呼吸するビニール「スパッシュ」にたどり着きました。このスパッシュは、自然界の植物から抽出したエキスが練りこんであるため、高醗酵で糸引きも強く、商品として美味しく食べられる賞味期限が、通常の納豆より2倍以上の納豆ができました。
しかし、苦味や渋みを取りのぞくことはできませんでした。その原因を追求して更なる研究を進めた結果、空気の対流を起こすことができ、納豆ガスを抜く技術を確立しました。
ただし、そこには、納豆の醗酵が始まって(醗酵室に入れてから10時間後くらい)から2時間おきに適切な商品管理をしなくてはならない。だからこそ高品質の納豆が作り出されると確信しています。さらにこの新しい製造方法から誕生した納豆に金粉をふり、金塊(インゴット)に似せたインパクトのあるパッケージで包み、高級感を演出した『こだわりの絶品』に仕上げました。

健康志向に対応した商品

海洋ミネラル納豆ミニ2
海洋ミネラル納豆ミニ2

この商品は、納豆業界初の健康志向商品として開発した納豆です。「海洋ミネラル納豆」は試作研究期間1年を経て、平成16年から本格販売を開始しました。
さらに改良を重ねて姉妹商品「海洋ミネラル納豆ミニ2」を開発、平成17年から本格的に販売を開始しました。この納豆は、美味しく、安全、安心でさらに身体に優しい商品作りをコンセプトに考案、開発した商品です。通常の納豆との違いは、製造過程での海洋ミネラル成分の添加です。大洗沖の海底200mから採取した海水を精製して作られた海洋ミネラル「(MCM)マリーナ・クリスタル・ミネラル」を納豆菌に混ぜて、煮蒸した大豆に噴霧して作り上げたミネラル豊富な納豆です。このMCMの特徴は、人間の体液とほぼ同等のミネラル成分を持ち、さらに精製の段階で有害な金属成分を除去した点です。(医薬品として特許を取得している健康食品です。)

現代人は、ストレスや暴飲暴食、タバコなどでミネラルが不足し体調を崩す人が少なくありません。健康は食からという理念から、ミネラル豊富な納豆が作れないかと試作を重ねました。
しかし当初は、このMCMには酢酸およびタンパク質を凝固させてしまうにがり成分が含まれており、納豆にならなかったのです。そこで、納豆菌とMCMの配合率を幾度となく繰り返し、さらに原料大豆の浸漬、煮蒸条件、醗酵温度を色々ためし、新たな製造方法(MCMと納豆菌適正配合率)を確立することができ、従来の納豆より旨み成分が3%~5%上昇し、ミネラル豊富かつ爽やかな風味で、美味しさと健康を両立させた納豆になりました。

環境問題に対応した商品

頑固一徹納豆
頑固一徹納豆

この商品は、試作研究期間1年を経て、平成17年から本格販売を開始しました。これは日立市の環境都市宣言、名古屋市の市民グループ(ブログミーツカンパニー)からの依頼を受け、納豆作りを通して企業として環境問題に貢献したいという強い思いから生れました。
納豆を、日本古来からある包材=経木(きょうぎ)(紙状に薄く削った木)と、丈夫で衛生的な紙に包むことで、容器・包装紙ともに可燃ゴミとして処理できるようにしました。発泡スチロール・プラスティック・ビニールなどの原油生産品を使用しない商品、すなわち地球環境に優しいエコロジー納豆です。

この商品は、タレ・カラシを添付していないため、納豆本来の味をより一層追求しなくてはなりませんでした。そのため、旨み成分であるグルタミンを通常の納豆より多く醗酵の時に作り出すことを工夫し、さらに紙や経木での醗酵は水分を必要以上に蒸発させてしまうので、しっとりとした甘い納豆にするための新たな製造方法を確立しました。

以上の菊水ゴールド納豆、海洋ミネラル納豆、頑固一徹納豆は、納豆としての5大要素である「味・色・形・香り・糸引き」がそれぞれの商品ごとにバランスよく調整されなければ高品質の納豆にはなりません。
品質を左右する要素は、まず原材料である大豆(国産大豆)にこだわり、吟味することです。そして、大豆の特徴を最大限に活かすための製造工程での工夫です。1年を通して同じ条件で製造することはできません。毎日、気温、湿度、水温といった気象状況の変化によって醗酵が異なり納豆の品質の良し悪しが決まってしまいます。
商品の同一性を維持し、高品質の安定した商品を作り出すためには、醗酵室に商品を入れてから8時間ないし10時間後、納豆菌が分裂をおこし増殖が始まったときから、2時間おきに醗酵状態を観察、確認しながら適切な措置対応をすることが必要です。オートメーション化された機械に頼らない、職人としての技・経験・勘による製造管理です。
大手メーカーにおいては、価格競争と大量生産を実現するため、安価で安全性が不透明な輸入大豆に依存し、さらに人的コスト削減や製造工程の自動化を導入して、低価格維持を優先した製造をしています。
本事業において、弊社は、工場が住居と併設しているという強みを活かし、随時、人による製造工程管理を徹底することができ、微妙な醗酵状態を見極められ、高い水準で納豆品質の均一化を実現するという独自の醗酵管理技能を確立しました。このことで、他社では真似のできない高品質な、納豆の5大要素を全て兼ね備えた納豆を作り出すことができたのです。
この様な高品質の納豆を作り出したことで、菊水ゴールド納豆は、平成15年、18年の茨城県納豆鑑評会で一等賞になり、平成16年には、全国納豆鑑評会で優秀賞「厚生労働省医薬食品局安全部長賞」を受賞することができました。
さらに、海洋ミネラル納豆ミニ2は、平成20年に日本一の称号である最優秀賞「農林水産大臣賞」を受賞することができました。
その後も平成23年黒豊納豆が優秀賞、平成25年にはひたちのなっとう(鈴丸大豆)が優良賞を受賞することができました。
これらの受賞に結びついた根本的なものは、こだわりを持ち、納豆一つ一つに愛情を持ち、納豆作りに妥協しない精神といえましょう。この精神こそ、製造業を基幹産業として発展してきた日立市と共通するものであり、地域産業の発展を支えてきた源ともいえるでしょう。
また、納豆オリンピックである全国納豆鑑評会において、弊社で開発した納豆製造技術が高く評価され日本一の称号をいただいたことで、「ものづくりの町日立市」のイメージ向上に大きく貢献でき、さらにTV出演をはじめとするメディアでのPRや新聞、雑誌等の取材による情報発信は、「日立の納豆」を全国に広めると共に、「日立市」そのものの知名度向上にも貢献できたと思います。

原材料の安定確保、食品の安全衛生及び販路拡大について

1.原材料の安定確保

農産物における貿易の自由化の進展により、多くの納豆商品が安価な輸入大豆を使用し、商品の低価格に歯止めがきかない。そんな状況の中、輸入食品の農薬残留問題等の発生により、国産大豆への需要が高まり、大手企業の買占めが始まり、価格が3~4倍に高騰しました。本事業は、日本の食文化であり、伝統食の1つである納豆の味にこだわることをテーマに掲げているため、安全、安心でかつ日本人の味覚にあった国産大豆の安定確保が重要課題です。そのため、インターネットを活用し、各産地の収穫状況をはじめ国産大豆市場に関して数多くの情報収集に努めると共に、同業者や仲買業者とのネットワークを強化するなど、良質な国産大豆を可能な限り安価で購入できるルートを再構築しました。
また、菊水ゴールド納豆には、金箔を使用しています。この金取引市場は相場変動が激しい上、日常の加工食品に使用するには、純度の高い3号金以上の物を使用しなくてはなりません。品質のよい金を安定した価格で仕入れることが大きな課題です。そこで北陸地方にある金卸業者や金箔製造業者を訪問して直接交渉により使用条件にあった金を探し出し、低価格での安定確保に努めています。

2.食品の安全衛生

食品安全衛生に関しましても、日常の衛生管理の徹底が求められます。弊社は、素材の安全性はもとより、作業場や作業員に係る衛生管理を徹底し、製造過程の作業ごとに関係機器の清掃を実施し、雑菌類の完全排除に努めています。このような地道な衛生管理が評価され、食品衛生協会から食品衛生施設の衛生保持に努めているとして、平成14年に理事長賞、平成18年には県知事賞をいただきました。本事業の開始以降、商品に対する消費者からのクレームは1件も発生していません。

3.販路拡大

本事業開始以前から取り組んできたインターネットでの販売を強化しています。現在はネット上で3軒のお店を運営し、ブロクでもさまざまな納豆に関する情報を書いています。このブログも4社のブログ会社に書き込みをしています。また、メールマガジンを発行して集客に努めています。
また、消費者の反応を直接感じるために、早くから市内外のイベントに積極的に参加しています。さまざまなイベントに参加することによって、市内で実績を積み重ね、市外では日立市の納豆として普及促進に努めています。さらにイベントに参加出店したおりに、商品を消費者やバイヤーに無料配布を行ってきました。消費者に配慮した事業展開や、産業振興のための意識啓発にも努めてきました。
今後は、納豆を使用した調理方法を今まで以上に研究、考案して、消費者の健康的食生活向上に関しても積極的に商品提供をしていきたいと考えています。
地道なこだわりの納豆作りをした結果、弊社独自の納豆製造技術が高く評価された「菊水ゴールド納豆」や「海洋ミネラル納豆ミニ2」は、幾度となく足を運んでも取り扱ってもらえなかった大手スーパーから引合いが来たり、有名百貨店の贈答用商材に採用されたり定番化されたりして販路が拡大しています。これらの受注増の背景には、納豆製造技術が評価され、消費者がこだわりを持った美味しい納豆を求めているのであると確信しています。一部の店舗においてはまとめ買いで品切れ状態になることもしばしばあり、小売店における売り上げ増になっていると推測します。
弊社売店や電話注文での顧客の声の一部を紹介します。「日立にこんな名物があって嬉しい、がんばって」「日立市民として誇りに思う」「もらって美味しかったので注文したい」「贈ってすごく喜ばれた」「遠方の友人から送るよう頼まれた」「もっと早く知りたかった」「どこで買えるのか」「ここの納豆だけは食べられる」「こんなに美味しい納豆は生れて初めて」などです。

最後に、日立市における食品加工業分野は、大量消費の時代を背景にした大手企業間の価格競争の影響により、中小零細企業や個人事業者の経営が低迷するとともに、経営者の高齢化、後継者不足の問題を抱えています。こうした中、弊社が進めてきた「独創的でこだわりのある」商品作りは、ひとつの取組事例として地域産業の発展に対し影響を及ぼすことを期待してなりません。
現在弊社では、地元産大豆を使用した新商品開発に着手しています。JA茨城ひたちと連携し栽培農家との需給体制を構築することで、生産・加工・販売までの流通過程に係るトレーサビリティを高め、より安全かつ安心な商品を提供していくことを目指しています。
さらに、茨城県農業試験場では納豆に適した大豆の品種改良を数年前から進めており、弊社との試作研究が進行中で、納豆としても完成に近づいています。これが完成すれば、農家の作付面積増や生産拡大が促進されることとなり、新種の地元大豆を使った高品質納豆の開発が可能となります。地元産の大豆にこだわった商品開発を目指し、農家を巻き込んだ事業展開を推進することにより、地域産業の活性化へと結び付けていきたいと考えています。
そのほか、現在進行中の商品としては、日立の桜を使った「さくら納豆」、地元の大根を使った「そぼろ納豆」、地元のお菓子屋さんとのコラボレーションで「納豆スイーツ」などがあります。
弊社がこれまで試行錯誤を重ねた上で結実してきた成果を携え、今後はますます日立の熱意ある人々と結びつきを深め、元気な日立の一翼を担いたいと決意しております。

※草案